緋色の月
この世界の月は、昔住んでいた世界よりも数が多い。少なくとも、目に見える数は。
ふと、空を―それは、真に「空」であったのかどうかは判らないが―見上げた螺呪羅は目を細めた。別に眩しかったというのではないのだが(いくら数が多かったからといって)。
戦の後の、昂揚した気分を冷まさねば、眠れるものではない…。別に今の主は朝寝したからといって喧しく云うことは無かろうが、体が休まらぬ。
こんな屋敷を持つことが出来たなら、此処には来なかったかも分からぬ、そんなことをふと思い、口元に微かな笑みを張り付かせ、螺呪羅は広い庭をゆっくりと歩いていた。
月が出ているということは、夜ということだ…。この世界は夜も昼も無いとは思うのだが。
昼と思しき時間帯は、空は妖しい色をしている。陽というものがない。…「向こうの世界」が、昼に対して「夜」を判別するのに対し、こちらは夜に対して「昼らしき時間」がある。
闇の領分に属するものが、こちらでは尊重されるのだ。
悲しみ・怒り・欲望・恨み……つまり、怨念、煩悩。
それが、この世界の唯一神。秩序に対する混沌。
混沌に身を委ねることが、この世界に生きるものの「幸」。それを快楽としてこそ、此処の住人だ。
頬に当たる風を、心地よしとも、不快とも思わず、螺呪羅は静かに歩んでいた。
そんな彼の隻眼に、ふと…、人影が映る。
既に庭としての体裁をした空間を通り越して、「屋敷の裏」に入ってしまったようだ、彼と自分の間には深い茂みがある。向こうはこちらに気づいていない。
何をしている。
大樹に、額をくっつけて…、少女趣味な見方をすれば、樹と対話しているかのようだ。
あれは、何と云ったか。
狛俊忠…、いいや、そんな名前を思い出してどうする…、己の名前すら、忘れて構わぬ世界に来たというのに。
鬼魔将の任を賜り、朱天童子との名を賜った者だ。
ふと、螺呪羅は上空を見上げ、そして、もう一度彼を見た。
まるで、紅玉のような月がある。赤い…。
そして、その色をそのままに移したような、赤い髪。
…何をしているのだ。螺呪羅は怪訝そうに目を細めた。
垣間見える顔は、苦悩している。大樹に押し付けた手が震えている。脂汗まで滲んでいるようだ。
自分と同じく散歩の途中、癪でも出たのか、小娘ではあるまいし。
昼間の、戦での彼を思い出して、高揚した気分を冷ますためならばあり得る、と螺呪羅は考えた。
四魔将と呼ばれる我らを、束ねる役を担う鬼魔将、それを、こんな軟弱な…、ともすれば「凛々しい女子」とも見えかねない者に任せるとは、といい思いを抱いては居なかった。鬼「御前」の方が似つかわしいのではないのかと、那唖挫辺りと囁きあったものだ。だが…、鎌を振るう姿に、仕方ないとも感じた…。
そして、主が「童子」を名に与えたことも納得だった。
ふと、朱天の体が揺らぎ、大樹に手をついたまま、腰を屈めた。片手が、ぐ、と下腹の辺りを押さえている。
やはり癪でも出たのかと螺呪羅は考え、やれやれ、介抱せねばならぬのか、と首を振った。……だが、次には、彼の口元に冷たい笑みが浮かんだ。
朱天の顔は、確かに苦悩しているように歪んでいる。額には汗が浮かんでいた。
……唇を噛み締め、何かを堪えているような表情である。
その頬が、紅潮していた。
あんな顔を、「向こうの世界」で見たことがある、螺呪羅は思い、そして口元には笑みが浮かんでいたのだった。
かさ、と茂みが音を立てた。びくん…と朱天が体を強張らせ、そちらに目と体を向けた。
その目が、螺呪羅を見つけ、驚愕の表情を作る。そして次には、彼を責めるように睨み付けた。
見てはならぬものを、螺呪羅は見た筈だった。しかし、隠れることも逃げることも無く、朱天を、嘲るような笑みを浮かべて見ていた。
「……幻魔将…」
朱天が呟く。相変わらず、険しい目で螺呪羅を睨みつけながら。
螺呪羅は、冷たい笑顔を消すことなく、ゆっくりと彼に近づきながら声を発した。
「……何をしていた?」
「散歩に出ていただけだ」
「ふん……具合が悪そうだな」
鼻で笑って頷き、螺呪羅は朱天の眼前まで近寄った。……ここまで接近したことなど、無い。いい感情を抱いていないのだから、当たり前だ。
ふと、螺呪羅が朱天の額に触れ、髪を掻き揚げながら、俯こうとしていた彼の顔を上げさせた。
朱天の紅潮した顔が、驚きの表情を浮かべる。
「無礼ではないか、離せ」
朱天は顔を振って螺呪羅の手を払った。
そしてそのまま螺呪羅の脇を擦り抜けて去ろうとする。それを螺呪羅は、朱天の腕を取って止めた。
「待て……逃げずともよかろう?」
「逃げてなど居ない」
螺呪羅の言葉に敏感に反応して、朱天は吐き捨てるように云った。
「何の用だ、私は、もう戻る」
「戻れるのか」
「……何のことだ」
朱天が顔を顰める。螺呪羅は、ふん…と薄ら笑いを浮かべたまま、朱天の体を大樹に押し付けた。
「何をする」
きり、と朱天が螺呪羅の隻眼を睨みつける。まっすぐに。
真っ正直に……。
普段は、この目に不愉快な思いしかしない。この世界に来た者とは思えぬほどに、真っ直ぐな目。
しかし、今は、螺呪羅はそれを嘲笑していた。
真っ直ぐに睨みつけるその目が…、微かに潤んでいる。
「戻れるのか、自分の室まで」
「何のことを云っている、当たり前だ…」
「立っているのも辛そうだったが」
「……もう大丈夫だ。ご心配頂いたなら有難いが、もう、大丈夫だ」
慇懃に朱天は云い、螺呪羅から顔を背けてもう一度、彼の前から離れようとした。
だが、螺呪羅が許さない。
朱天の顎を掴んで、く、と上向かせ、じっと目を見つめる。
不愉快そうに、相変わらず朱天は螺呪羅を睨む。
「……鬼魔将、お主、女を知って居るのか」
「何だと……!?」
突然の無礼な質問に、朱天は気色ばんで怒鳴った。
「いきなり、何を訊くか、……つくづく、無礼な男だな、貴様!」
顎に触れた螺呪羅の手を、朱天は乱暴に払う。払われたその手で、螺呪羅は自分の顎を擦った。……くく、と喉で笑いながら。
「女を知っている、ということがどういう意味かは、判る程度か」
「答える必要が無い」
「では、男は? お主は儂と違って一国の主だったそうだが、稚児辺りは召抱えておらなんだのか」
「喧しい」
「それとも……、もともと居った主を誑し込んで下克上……」
「喧しい!」
朱天が螺呪羅の頬を、思わず張った。ぱしん……と乾いた音が聞こえ、乱れた髪が螺呪羅の顔を隠す。
唇を噛み締め螺呪羅を睨む朱天に対して、螺呪羅は全く悪びれず、……髪の向こうに隠れた唇は、相変わらず人を小馬鹿にした笑みが張り付いていた。
「一体……、どんなつもりでそんなことを訊いてくるんだ、貴様…」
朱天の声が震える。それは、恐らく怒りのためだけではあるまいと、螺呪羅は思う。
髪を掻き揚げながら朱天の顔に視線を戻し、螺呪羅が、ふん、と鼻を鳴らした。
「下の口に男を咥え込んだ女子のような顔をしておったからよ」
「……! 何ッ…!」
「我慢することはあるまいに。女を抱きたければ、かどわかしてくればよい。それをせんのなら、稚児趣味でもあるのかとな。それとも……、自分が、されたいのか」
くっく…、と笑いながら、螺呪羅が云う。
朱天は、余りの屈辱に顔が青くなりそうだった。……だが、その頬の火照りは、消えない。
朱天の面に、戸惑い、という表情が浮かぶ。「何故分かる」とでも云いたげな。
螺呪羅は、その表情を見て、……「勝者」のような笑みを浮かべた。
「自分で帰れると云ったな。……本当か」
「……何故、そんなことを訊く」
「手すさびもせずに? 脚が動くか?」
「五月蠅い! ……な!」
螺呪羅が、何の遠慮も無く、朱天の襟に手を差し入れた。
「熱いな……」
「何をする……!」
朱天が叫ぶ。苦悩しているように、眉を寄せて。
螺呪羅の手が、平らかな胸を撫でるように動いた。
「離せ……!」
「何故、自分で手を振り払わない」
螺呪羅はそう云うと、木の幹に爪を立てた朱天の手を取った。
「さっき、儂の頬を張った手で、何故もう一度、……払わない」
「……」
「快いか」
「煩い……」
「続けて欲しいか?」
「嫌だ」
「ならば、払え、自分で」
嘲る声で云い、螺呪羅の襟に潜った手が、……胸の丸をなぞった。
びく、と朱天が体を強張らせる。
手は、螺呪羅のそれを払うことなく、またしても幹に爪を立てる。唇を噛み締めて、朱天は目を閉じ、震えていた。
くすくす……と笑い声を漏らして、螺呪羅はその表情を見つめていた。
「熱いな、鬼魔将……。斬った人間の体温を、全てその身に受け継いだようだ」
「……」
鎌を振るう鬼魔将の姿を思い出す。そして、賜った名前、「朱天童子」。
天を朱に染める童……。
主は、何とも似つかわしい名を与えた。
鎌から散る飛沫、垣間見える、鬼魔将の笑顔。
純粋な悪、というものがあるならば、四魔将の頂点に立つにはそれが必要なら、やはりこの男が鬼魔将を賜って当然なのだろう。
蜻蛉の羽をむしる童子のような、無邪気な残酷。
「しかし、全くの子供でもないな……」
螺呪羅の呟きに、朱天が微かに目を開けた。「何のことだ」と云いたげな表情に、螺呪羅は答えない。
その満足と快感を、「性」という体のものとして溜めてしまうというのは……、全くの子供では考えられない。
しかし、放つ術は知らぬらしい……、少なくとも、自ずから放つには躊躇いがあるのか。この男、こっちの方面では、「この世界」に似つかわしくない硬さだ。
それが故に孤高、……他の3人から見たら厭わしい、「純粋」なのだろうか。
混沌という闇こそが唯一のものである筈の世界に、降り立った血の色の「光」。
ふと、空を仰ぎ見て、ふ、と螺呪羅が笑う。
「は、な、せ……」
「何故。快いなら快いと云え」
「こんなことは、違う……」
「何が違う」
「違う」
「何が……。お主、生真面目ではあるが、欲には正直でないのだな」
嘲る螺呪羅の声。
「嫌なら払え。何故、それをしない。……望んでいるのだろう?」
「違う……、……!」
螺呪羅が、朱天の髪を掴むと、ぐ、と引いた。
そして、あ、と開いた口に、螺呪羅が自分のそれを嵌めこむ。
驚きに目を見開き、朱天はもがいた。
必死に、胸を押し返そうとしていた手が、螺呪羅の後頭部に向かい、髪を掴んだ。
何かが指に触る。それが何かは考えずに、朱天はひたすら、彼の頭を剥がそうとしていた。
……はらり、とそれが落ちる。
螺呪羅がやっと、口を離した。つ、と液体の糸が二人の唇の間を繋ぐ。
朱天は、はあ、はあ、と息を吐きながら螺呪羅を睨んだ。……上気して、潤んだ瞳で。
不思議な色の螺呪羅の髪。乱れた髪の隙間から、目が見える。
朱天は、次には驚いた表情を浮かべた。
落ちたのは、眼帯だ。それが落ちたせいで、螺呪羅の、閉じ合わさったままの瞼が見える。それを、初めて朱天は見た。
だが、ただそれだけで驚くはずも無い。自分は武将である、片目を失った顔など見たことはある、部下にも居た。
……驚いたのは、その瞼が、開いたからだ。
そして表れた目を見て、朱天は息を呑んだ。
に、と螺呪羅が笑った。
朱天は、咄嗟に、空を仰ぎ見た。赤い月を。
螺呪羅の左眼窩に収まっていたのは、その月をそのまま収めたような、赤い球。虹彩だけでなく、紅玉に瞳を描いたような、赤。瞳は、それ以上に深い赤だった。
真っ直ぐに目を合わせ、……朱天は、体の力が抜けていくような気がした。
ずる……と木の幹に沿って、朱天の体が崩れ落ちる。目だけは、螺呪羅と合わせて、上を向いたまま。
朱天を見下ろし、螺呪羅は薄く笑っていた。
「幻魔将……、その、目は……」
螺呪羅は膝をつき、朱天の顔を覗き込む。そして、彼の髪を一房摘むと、軽く、口付けた。
「鬼魔将の名を頂いたのは、伊達ではなかったのだな、朱天」
螺呪羅が、初めて名を呼んだ。この世界で通用する、「名前」を。
「血の色の髪、純粋な悪、無邪気な鬼……朱天童子。空を朱に染める童」
「……」
「しかし、儂が幻魔将の名を戴いたのも伊達ではない……」
くす、と螺呪羅が笑う。
そして、朱天の頭と肩に手をやって、自分の胸に引き寄せた。それに抗う力は、朱天には無い。ただ、螺呪羅の赤い瞳から、目が離せない。
「身動きがなるまい」
「……」
「鬼魔将殿よ、幻魔将の誘惑に堪えられるか」
くっく……と螺呪羅が喉を鳴らす。
朱天は、今度は土に爪を立てていた。逃げたいのに、体が動かない。目を離せない。
「……は、な、せ…」
朱天が、掠れた声で呟く。しかし、螺呪羅は応えない。
「……こんな、ことは、違う…」
螺呪羅の手が、襟の中で胸に触れる。もう片方の手が、下肢にのびていた。
朱天は体を震わせて、螺呪羅の目を見たまま、微かに首を振っていた。
「ふん……、鬼魔将殿も、幻魔将の誘惑に屈するか?」
「はな、せ、……私は、貴様などに……ッ」
「お主の欲を放つ、手助けをしてやろうとしているのだぞ、儂は」
「余計な世話だ……!」
「苦しいのではないのか。その身に駆け巡る感覚が」
「煩い……」
「戦に出るたびに、悶えるのか」
「喧しい……ッ!」
螺呪羅が朱天の体を横たえて見下ろす。
朱天は、首を振って、螺呪羅を「睨みつけた」。決して、螺呪羅の幻惑のためばかりでなく……目を離さず。
朱天の濡れた、真っ直ぐな視線に、……螺呪羅の方が、背筋を寒くしていた。
無邪気な鬼の目に。
「……朱天…」
「許さぬ……、どけ、幻魔将、今なら、忘れてやる……! 人を愚弄するのもいい加減にしろッ…」
「愚弄……そうか。……鬼魔将殿を弄べるのも、幻魔将だけだろうからな…」
何処か、自嘲めいて螺呪羅が呟いた。そして、朱天に覆いかぶさる。
「幻魔将……!」
螺呪羅を引き剥がすのに充分な力が出せない。
ただでさえ螺呪羅の目に惑わされているのに、彼の体の重みまで加わって身動きがならない。
他人に触れさせるような場所ではないのに、螺呪羅が触っている。
やめろ、と胸の中で叫ぶ。声は、殆ど出ていない、自分の耳にも聞こえない。
ただ唇が形作るだけ。
次には、その形すらも作れず、「こっ」と喉が詰まった音を立てた。
体を裂かれているような痛みに襲われる。
何をしている……。
人を、女子の代わりにしているのか。
螺呪羅への怒りに加えて、自分自身すらも情けなく思え、朱天は眦から雫を落とした。
痛みの中に、……螺呪羅が云ったように、何かが解放されたような満足感があり、……自分が厭わしい。
朱天は唇を噛み締め、土を掻き毟っていた。
そんな朱天を、螺呪羅が見下ろして、静かに名を呼んだ。
「朱天」
朱天は答えない。
それを螺呪羅は咎めずに、……爪の間に土を潜り込ませてしまった朱天の手を取った。
そして、自分の肩と背中に回させる。
「縋れ」
「……」
「こういう時は、縋ればよいのだ」
そして、螺呪羅は、朱天の背を抱いた。
「幻魔将……ッ」
「螺呪羅、だ」
「……」
耳元に、低い声で螺呪羅が囁く。
びく、と朱天の体が強張り……、螺呪羅の背を抱いた。
何故、こんな屈辱を与えられながら、与えている人間の背中にしがみついて
「ら、じゅ、ら……」
思わず呟いた朱天の声に、螺呪羅が答えたように、強く抱く。
こんなに、自分が情けなくて、螺呪羅に怒りが収まらないのに
自分を辱めている人間の名前を呼んで、引き寄せられて
「朱天……」
名を呼ばれて
何故……、たったそれだけのことで、何となく、楽になる。
「螺呪羅、……ら…じゅ、ら」
朱天は、混乱しながらも、ひたすら螺呪羅にしがみつくことしか出来なかった。
体の中が濡れた感触と、自分の体から何かが放たれた感触があった。
螺呪羅の肩に顎をのせていた朱天の、ぼんやりとした瞳に、
赤い月が映る。
螺呪羅が、朱天を見下ろして云う。
「朱天童子」
「……」
「また、すっきりしたくなったら云え。相手はしてやる」
「煩い! 誰が、二度と、こんなことは許さん」
既に眼帯を戻した螺呪羅を睨んで、朱天が怒鳴る。
螺呪羅が、薄く笑って云う。
「残念だな……。儂はなかなか、お主が気に入ったのだが。折角ともお近づきになれたというのに、つれないのだな」
「馬鹿を云うな! こんなことは、二度と……」
「……幻魔将の幻惑にひっかかったと思えば、自尊心に傷はつくまいが」
嘲笑を交えて螺呪羅が云う。
それは、朱天が螺呪羅に抗えなかったことを、言葉を変えて云っているのだ。朱天にとっては屈辱以外の何物でもない。
「手すさびよりは、良かろう?」
「煩い!」
「……人肌に縋るのは」
「……黙れ!」
朱天はひたすら、螺呪羅の言葉を聞くまいとしていた。……彼の言葉を、否定するのではなく。
それを螺呪羅は見越しているのか、朱天を嘲笑う。何処か、朱天を哀れにも思うような目をして。
そして、自分すらも嘲けるように。
「真円の月は、人を狂わすのだとさ」
螺呪羅が独り言のように呟いた。
「儂も、惑うたのかもしれぬ」
「月のせいにするのか。つくづく、貴様……」
「月と、お主にな」
朱天の言葉に被さるように螺呪羅が云った。
「すっきりしたくなったら云え、と云ったのも冗談ではないが……、そのつもりがないなら、今度から儂に、余計なものを見せるな」
道化たように螺呪羅が云った。
「儂も、戦の後は血が滾って、散歩で冷ますのが常でな……」
「……」
「儂の幻惑にひっかかりたくなくば、手すさびは室でやってくれ。目の毒だ」
「最初から、そんなつもりはないッ……、貴様が!」
「ほら、儂の幻惑にかかったと思えば楽だろうが」
「……!」
いつまでも自分の都合のいいことを云う螺呪羅を、朱天は真っ直ぐに睨みつける。
その視線が悪い、と螺呪羅は苦笑する。
どっちが幻惑しているのだか。
「まあいいさ……。儂はいい思いをさせてもらった。次があると嬉しいのだが、お主にそのつもりが無いのなら」
「黙れ……!」
「残念だな。……儂は構わぬぞ、朱天。那唖挫や悪奴弥守よりは、縋りやすかろう、何せ、一度知った体だ」
「煩い! 去れ!」
相変わらず、正直な男だ、と螺呪羅は苦笑した。……否定を何故しない。
「何だ、連れて帰ってやろうかと思うておったに。動けるのか?」
「余計な世話だ!」
「そうか」
あっさりと螺呪羅は頷き、踵を返した。
朱天は、去っていく螺呪羅を見届けることはなく、彼に背を向けたままで唇を噛んでいた。
ふと、二人は別々の場所で同時に空を見上げた。
血の色をした月がある。
鬼の髪と同じ色。
幻惑の瞳と同じ色。
螺呪羅は、その美しさに目を狭めた。そして、視線を落として手を見つめた。
鬼の髪の手触りを思い出して、……少しばかり、胸の中が熱くなる。
朱天は、まるで、あの月をそのままに眼窩に埋めたような目を思い出して、体を震わせた。寒さを感じたように、肩を抱く。しかし、寒いどころか、熱い。
そして、二人はまた、月を見上げる。
鬼の髪と同じ、幻惑の瞳と同じ
闇の中に輝く 緋。
2001/10/24
tak/utch
[★高収入が可能!WEBデザインのプロになってみない?!
自宅で仕事がしたい人必見!
]
[ CGIレンタルサービス | 100MBの無料HPスペース | 検索エンジン登録代行サービス ]
[ 初心者でも安心なレンタルサーバー。50MBで250円から。CGI・SSI・PHPが使えます。
]
| FC2 | キャッシング 花 |
出会い 無料アクセス解析 |
|